広島高等裁判所岡山支部 平成11年(ラ)25号 決定 2000年11月29日
抗告人兼当審寄与分申立人 X
相手方 Y1
Y2
被相続人 A
主文
1 原審判を次のとおり変更する。
(一) 相手方らの寄与分をそれぞれ金1300万円と定める。
(二) 被相続人Aの遺産を次のとおり分割する。
(1) 相手方らは、別紙遺産目録記載1ないし3の土地の共有持分の3分の2及び同目録記載4の建物を各2分の1あて(土地につき相手方らの持分各3分の1、建物につき相手方らの持分各2分の1)共有取得する。
(2) 抗告人は、各相手方に対し、別紙遺産目録記載1ないし3の土地の抗告人の持分9分の2(岡山地方法務局岡山西出張所平成7年6月13日受付第×××号をもって登記されたもの)の2分の1あて、遺産分割を原因とする持分移転登記手続をせよ。
(3) 上記遺産取得の代償として、抗告人に対し、相手方Y2は1711万円、相手方Y1は75万円及びこれらに対する本決定確定の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 当審における抗告人の寄与分の申立てを却下する。
3 鑑定人Bに支払った鑑定費用50万円は相手方らの負担とし、その余の手続費用は原審及び当審を通じて各自の負担とする。
理由
第1抗告の趣旨及び理由並びに当審における抗告人の寄与分の申立て
1 抗告の趣旨及び理由は、抗告人代理人名義の即時抗告申立書、平成11年6月29日付け抗告理由補充書及び平成12年11月20日付け即時抗告理由補充書II記載のとおりであるからこれらを引用する。
抗告理由は、要するに、<1>原審が相手方らの寄与分を各1873万円と認定したのは過大な認定であり、不当である、<2>原審が遺産である土地共有持分の価格を不動産鑑定士の鑑定評価額より1割減額したのは不当であるというものである。
2 抗告人は当審において、別紙「寄与分を定める家事審判申立書」(写し)のとおり寄与分の申立てをした。
第2当裁判所の判断
1 相手方らの本件遺産分割及び寄与分の申立てについて
一件記録に基づく当裁判所の認定判断は次のとおりである。
(1) 相続の開始、相続人及び法定相続分
被相続人は、平成6年12月21日死亡し、相続が開始した。
相続人は、被相続人の子である抗告人及び相手方らであり、その法定相続分は各3分の1である。
(2) 遺産の範囲
被相続人の遺産は、別紙遺産目録記載1ないし3の土地(以下「本件1ないし3の土地」という)の各共有持分3分の2及び同目録記載4の建物(以下「本件建物」という)である(以下、本件遺産分割の対象である本件1ないし3の土地の各共有持分3分の2及び本件建物を「本件遺産」という)。
(3) 特別受益
相手方Y2は被相続人から、別紙特別受益目録記載の土地(以下「受益土地」という)につき、昭和53年10月28日及び昭和54年2月1日にそれぞれ持分3分の1、合計3分の2の持分の贈与を受けており、これは、同相手方の特別受益にあたる。その相続開始時の価格は、鑑定の結果により、1625万円(1万円未満四捨五入。以下同様)と認められる。
(4) 遺産の評価
本件遺産については、不動産鑑定士である鑑定人Bが評価している。
同鑑定人は、本件1ないし3の土地の価格について、取引事例比較法及び収益還元法を適用して試算し、両者の試算結果を総合して鑑定評価額を算定しており、上記評価手法は首肯し得るところである。しかし、上記鑑定によれば、上記各土地の相続時の価格について、取引事例比較法によれば、本件1の土地が1平方メートルあたり1万6000円、本件2の土地が同じく1万6162円、本件3の土地が同じく1万4085円と試算され、収益還元法によれば、1平方メートルあたり779円と試算され、両者の間には著しい開差があるところ、その理由は、本件1ないし3の土地は市街化調整区域にある農地であるが、近隣においては宅地等の見込土地として取引が行われていることにあると認められる。そして、同鑑定人は、取引事例比較法による試算の結果を重視し、本件各土地の相続時の価格につき、本件1の土地を1平方メートルあたり1万5499円、本件2の土地を同じく1万5653円、本件3の土地を同じく1万3662円と評価し、時点修正をして鑑定時の価格を評価している。
しかし、後記のとおり、本件1ないし3の土地はこれまで長期間にわたって被相続人とともに相手方らが農地として耕作していたものであるところ、相手方らは今後とも上記各土地を農地として継続して耕作することを希望しており、本件におけるこのような事情を考慮すると、収益還元法による試算の結果を更に多少加味して評価するのが相当であるから、鑑定評価額の1割を減額した価格をもって相当価格と認める。
本件建物の価格については、上記鑑定評価額を修正すべき事情は認められない。
したがって、本件遺産の価格は次のとおりとなる。
<1> 本件1の土地の共有持分3分の2について
相続時 4250万円
平成9年2月25日 4292万円
<2> 本件2の土地の共有持分3分の2について
相続時 1899万円
平成9年2月25日 1918万円
<3> 本件3の土地の共有持分3分の2について
相続時 116万円
平成9年2月25日 118万円
<4> 本件建物について
相続時 27万円
平成9年2月25日 13万円
なお、本件遺産の価格は、鑑定時である平成9年2月25日と現在とで格別変動があったとは認められないから、鑑定時の価格を現在の価格とする。
(5) 相手方らの寄与分
抗告人及び相手方らは、昭和35年に抗告人が結婚するまでは被相続人と同居し(なお、被相続人の夫は昭和29年に死亡している)、それぞれ被相続人の農業経営を手伝っていた。
その後、抗告人は被相続人と別居し、年に数回農業の手伝いに帰ってくる程度であったのに対し、相手方らはその後も本件建物で被相続人と同居し、相手方らはいずれも会社員として勤務していたが、勤務の合間を縫って、朝夕あるいは休日に被相続人の農業を手伝い、被相続人が高齢化するのに伴い、被相続人に代わって相手方らが農業全般の経営にあたるようになり、このような状態は被相続人死亡時まで続き、被相続人死亡後も相手方らは従前どおり本件1ないし3の土地等で農業に従事している。
被相続人は昭和58年ころから足腰が弱くなって失禁も頻繁になり、おむつ交換、食事の介添え等の介護が必要になったため、同居していた相手方らが協力して被相続人の介護にあたっていたが、平成元年に相手方Y1が勤務先を退職したのちは主として同相手方が被相続人の介護にあたった。
被相続人は、平成3年ころから痴呆症状が進行し、平成4年1月にa病院に入院し、同年4月にはb病院c分院に転院し、平成6年12月21日に死亡するまで同分院に入院していたが、被相続人の入院中も、相手方らは病院に通って介護し、また、病院に泊まり込んで付き添う等して、被相続人の療養看護に努めた。
被相続人の収入は月額約3万円の年金のみであり、相手方らは被相続人の生活費の不足分を負担し、また、被相続人の治療は抗告人の健康保険を利用して行われたが、治療費のうちの自己負担分や介護用品購入費用についても、被相続人の収入で足りない部分は相手方らが負担していた。
なお、相手方らは、被相続人のために農機具を購入したり、多量の農薬を買い入れるための農業経営にかかる資金を援助してきたと主張するが、これを認めるに足りる的確な証拠はない。
以上によれば、相手方らは、永年にわたって被相続人の農業に労務を提供するなどし、また、被相続人の扶養及び療養看護について子として期待される通常の程度を越えた貢献をし、これによって、被相続人の財産の維持に特別寄与をしたということができ、相手方らの寄与分は、それぞれ本件遺産の相続開始時の価格の2割強にあたる1300万円と認めるのが相当である。
(6) 相続分の算定
<1> 前記のとおり、被相続人の相続開始時の遺産総額は6292万円であり、相手方Y2の特別受益の額(相続開始時)は1625万円、相手方らの寄与分の額は各1300万円であるから、みなし相続財産の価額は5317万円(6292万円+1625万円-1300万円×2)である。
<2> 本来的相続分は、抗告人及び相手方ら各1772万円(5317万円×1/3)である。
<3> 具体的相続分
抗告人 1772万円
相手方Y2 1447万円(1772万円+1300万円-1625万円)
相手方Y1 3072万円(1772万円+1300万円)
<4> 分割時の遺産総額は前記のとおり6341万円である。
<5> 各相続人の具体的取得分
抗告人 6341万円×1772/6291 = 1786万円
相手方Y2 6341万円×1447/6291 = 1459万円
相手方Y1 6341万円×3072/6291 = 3096万円
(7) 遺産の利用状況及び遺産分割についての当事者の意見
<1> 本件1ないし3の土地の他の共有持分権者は相手方Y2である。右各土地は1団の農地であり、前記のとおり長期間にわたり被相続人及び相手方らが耕作し、被相続人死亡後は相手方らが現在まで耕作している。
本件建物は受益土地上にあり、相手方らが居住している。なお、被相続人も死亡するまで同建物で相手方らと同居していた。前記のとおり、受益土地の3分の2の持分は相手方Y2の特別受益であるが、他の3分の1の共有持分権者も同相手方である。
相手方らは、代償金を支払って本件遺産すべてを相手方らにおいて共有取得し、本件1ないし3の土地でこれまでどおり耕作を続けていくことを希望している。
<2> 抗告人は、永年にわたりサラリーマンとして生活し、現在は定年退職している。
抗告人は、相手方らが本件遺産を現状のとおりに利用することは容認するが、本件遺産の遺産分割には反対である旨主張している。
(8) 当裁判所の定める分割方法
上記のとおり、抗告人は遺産分割に反対するが、本件において遺産分割を禁止すべき根拠は見出しがたい。
そして、上記認定の本件遺産の利用状況、遺産分割についての当事者の意見、希望、本件1ないし3の土地の他の共有持分権者は相手方Y2であること等を考慮すると、本件遺産はすべて相手方らに共有取得させ(相手方らの持分各2分の1)、抗告人には代償金を取得させるのが相当である。
そうすると、抗告人が取得する代償金は1786万円である。また、相手方らの取得額はそれぞれ3171万円であり、相手方Y2は具体的取得分を1712万円、相手方Y1は具体的取得分を75万円超過する。
したがって、上記遺産取得の代償として、抗告人に対し、相手方Y2は1711万円、相手方Y1は75万円を支払うべきである。
(9) 登記義務
本件1ないし3の土地の被相続人の共有持分3分の2については、すでに岡山地方法務局岡山西出張所平成7年6月13日受付第×××号をもって抗告人及び相手方らの持分を各9分の2とする共有名義の相続登記がされているから、抗告人の持分について相手方らに各2分の1あて遺産分割を原因とする持分移転登記手続を命じるのが相当である。
(10) 手続費用
鑑定人Bに支払った鑑定費用50万円は相手方らの負担とし、その余の手続費用は各自の負担とするのが相当である。
2 当審における抗告人の寄与分の申立てについて
家事審判規則103条の4第3項によれば、遺産分割の審判手続において、家庭裁判所は、当事者の寄与分を定める審判の申立てをすべき期間を定めなかった場合においても、遺産分割の審理を著しく遅延させると認められ、かつ申立てが遅滞したことにつき申立人の責めに帰すべき事由があるときは、当該寄与分を定める審判の申立てを却下することができる。
これを本件についてみるに、本件記録によれば、相手方らは、平成7年8月21日、抗告人を相手方として原裁判所に対して本件遺産分割調停の申立てをし〔同裁判所平成7年(家イ)第××号〕、同年9月18日、抗告人を相手方として寄与分を定める調停の申立てをした〔同裁判所平成7年(家イ)第××号、第××号〕こと、抗告人は同年9月26日の第1回調停期日に出頭したが、遺産は共有のままにしたいとして調停申立ての取下を要求し、その後の調停期日には出頭しなかったため、調停は同年12月5日不成立となり、審判に移行したこと、審判手続において、家庭裁判所調査官が家事審判官の調査命令を受けて調査にあたったが、抗告人は家庭裁判所調査官の調査のための呼出に応じず、抗告人の自宅まで出向いて調査する旨の家庭裁判所調査官の申し出も拒否したこと、なお、抗告人と家庭裁判所調査官との間で電話連絡が数回なされ、その際、抗告人は、家業である農業に寄与したと述べることはあったが、相手方らが本件申立てを取り下げることを要求し、抗告人は本件手続には協力しないとの主張を繰り返すのみであったこと、その後、原裁判所は抗告人に対して審問のための呼出を数回行ったが、抗告人は出頭しなかったこと、したがって、抗告人の寄与分については、原審において調査がされていないこと、抗告人は、昭和62年、脳動静脈奇形の手術をし、その結果、右脳を損傷し、左半身不全麻痺になったが、思考能力には影響がなく、相手方らの本件遺産分割の申立てについても主治医であるa病院の医師に相談していること、抗告人は、原審判後、弁護士を選任して本件抗告に及び、次いで、本件寄与分を定める審判の申立てをしたこと、以上の事実が認められる。
以上によれば、抗告人の当審における寄与分を定める審判の申立てが遺産分割の審理を著しく遅延させることは明らかであり、また、抗告人は、原審の審判手続において家庭裁判所調査官の調査にも応じず、審問のための数度の呼出にも出頭しなかったものであり、これらに照らすと、抗告人が寄与分を定める審判の申立てを遅滞したことは抗告人の責めに帰す事由によるものと認めるのが相当である。
したがって、当審における抗告人の寄与分の申立ては却下を免れない。
第3結論
よって、前記判断と異なる原審判を変更し、当審における抗告人の寄与分の申立てはこれを却下することとし、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 前川鉄郎 裁判官 辻川昭 森一岳)
遺産目録
1 岡山市<以下省略>
田 4570平方メートル
2 岡山市<以下省略>
田 2022平方メートル
3 岡山市<以下省略>
畑 142平方メートル
4 岡山市<以下省略>
木造瓦葺平家建居宅
床面積 51.40平方メートル
以上
特別受益目録
岡山市<以下省略>
宅地 495.87平方メートル
以上
上告理由 即時抗告申立書
抗告人 X
上記抗告人代理人
弁護士 C
抗告の趣旨
岡山家庭裁判所平成7年(家)第××××号遺産分割事件、同平成7年(家)第××××号・第××××号寄与分申立事件の、平成11年3月31日付の審判は、これを取消し、本件を岡山家庭裁判所に差し戻すとの裁判を求めます。
抗告の理由
I.はじめに
抗告人代理人は当審にて初めて委任を受けたもので、現在手元に存する書類は、審判書、相手方Y1・同Y2両名からの寄与分を求める申立書各1通並びに不動産鑑定評価書のみで、原審での記録一式について精査もできない状況なので、抗告の理由は骨子のみとして、後日詳細なる補充書と抗告人の主張を裏付ける書証を提出予定である。
II.相手方Y1・同Y2に対する寄与分の認定が過大であること
(1) 岡山家庭裁判所の審判書(以下単に原審という)によると、本件の被相続人Aの相続財産につき、下記のとおり認定した。
みなし相続財産(寄与控除前)は7917万円
(法定相続分たる3分の1は2639万円)
相続開始時の財産は6292万円(3分の1は2097万円)
そして、相手方Y1(以下単にY1という)・同Y2(以下単にY2という)に対しては、寄与分として1873万円を認定し、これを控除した相続分について、Y1に対し1390万円(寄与分を合算すると3227万円)、Y2に対し0円(特別受益1625万円を超過)、抗告人に対し1283万円とした。
これを表にまとめると以下のようになる。
原審 法定相続分
Y1(相手方) 3146万円(1873万円+1273万円) 2639万円(みなし相続財産)
Y2(相手方) 3498万円(1873万円+1625万円) 2639万円
X(抗告人) 1283万円 2639万円
合計 7927万円(?)※ 7917万円
(※原審の数値がよく理解できないが、それは次回までさておく。少なくとも抗告人代理人の考えでは、寄与分を控除した後のY1と抗告人の相続分は同じと思える)
(2) 原審で認めたY1・Y2の寄与分は、各自1873万円で、合計3746万円となし、みなし財産7917万円の47%にも該当し、相続時の財産6292万円の60%にも相当する大変な割合の寄与分の算定である。
もともと寄与分(民法904条の1)を追加・改正したのは「特別の寄与」行為でなければならないとされている。即ち、寄与行為が被相続人と親子の関係にある場合は、直系血族の扶養義務や互助義務が発生しているのであり、寄与分を認めるためには寄与行為が通常期待される程度を超える必要がある。
通常相続財産に於いて寄与分を50%近くも認定するならば、相続財産を単に維持するだけでは足らず、増加さす必要があると思われる。然るに本件について言うならば、35年以上という長きにわたって被相続人の家に無償にて居住し、田から収穫される米をも費消している訳であり、特別の寄与に該当するか否かも疑問である。仮にあったとしても、通常程度の10%前後が妥当と思われる。Y1は生前の贈与があり、その意味は被相続人からの寄与に対する感謝の気持ちと考えられ、更に寄与分を認めるのは二重に寄与を認めた結果になり不合理である。
一方、原審での抗告人の相続分の割合は、全体の16%に過ぎず、且つ現金ということで、長男として父の財産たる土地の一部ももらえないことは、不公平という以外に長男としての自尊心を著しく傷つけたものである。
III.原審は、相続財産の算定にわたって、B不動産鑑定士の鑑定金額より10%を減殺している。これも不当である。
Y1・Y2らは専業農家でないことは勿論、第1種兼業農家にも該当しない。Y1・71才・Y2・66才の2人の老女が停年を終えて、年金暮らしをしながら、その余暇に、言わば健康づくりのために耕作しており、強いて言えば第2種兼業農家とも言い得るものに過ぎず、鑑定額から10%を減ずる必要はない。
IV.原審判手続が審理不尽たること
(1) ここで特に強調したいのは、本件調停及び原審判において抗告人は精神状態がひどく悪かったことである。抗告人はd(株)の社員であったが、昭和62年に発作で倒れ、右脳動静脈奇形により手術を為し、丸3年の入院生活を余儀なくされ、平成4年には定年退職した。しかし、この病気で左半身の運動障害の外に、知覚に障害があり、手術後は言葉も計算もできないという状況から、妻D(結婚前は看護婦)の献身介護とリハビリにより日常生活がおくれるようになったが、現在でも興奮しやすく易怒性がある。
岡山家庭裁判所の調停・審判期日に於いても、調停のときに妻の付添いで1回出席したのみである。これは抗告人の知覚障害と易怒性によるものである。家事審判は通常の民事訴訟と異なり、職権探知主義を採っていることは衆知のとおりである。本件の場合、抗告人本人が調査に非協力的であったのは、その病気故である。自分の意に反した事実や意見を言われると興奮し、怒り、怒鳴るという行為を為し、そのことにのみとらわれて話が進まない。そのため、第1回の調停に際して妻Dが本人に代わって事情を話そうとしたが、「関係がない」と断られ、以後審判になっても同様のことを言われ、結局抗告人サイドの真実は何ら裁判所に伝えられないままに原審の結果となったものである。
もし調査官が妻Dに面接して事情を聴取していたら、少しは結果が違ったと思われ残念でならない。
抗告人は現在も興奮しやすく、すぐに怒り、話は本筋から離れ、制止も聞かず一方的にとうとうとしゃべりまくる。更に、抗告人代理人から見れば、身体障害者であることや、興奮しやすいということや、異常性格とも言い得ることのコンプレックスも重なり、被害妄想又は誇大妄想の気配も感じられる(乙第1号証・診断書)。
また抗告人はもとより、妻に於いても遺産分割・寄与分等の法的手続について理解が足らず、今回やっと、代理人から「寄与分」は正式に法的手続をしなければ認めてもらえないことが判った状態である。
V.抗告人にも寄与分が存在する
抗告人にも本件相続財産たる田の維持について、又母の看護についてもY1・Y2と同じ、またそれ以上の寄与がある。
昭和34年から61年まで、勤務先が何処に変わっても稲作の作業に最も重要な2月(乾いている田を機械で掘り起こす。通称・荒起し)、5~6月(苗代・田植え)、10~11月(稲刈・脱穀)の各農作業時には帰岡して、特に機械を使用して手伝っている(機械は抗告人しか運転できる人間がいなかった)。この点について後日書証を添付して詳しく主張するし、近々岡山家庭裁判所に寄与分の申立をする予定である。
VI.その他
被相続人は昭和49年頃から痴呆が始まっている。従って、昭和53、54年にY2に対し、特別受益として、被相続人の持分が贈与されているのは、被相続人の意思とは無関係に為されたもので、無効の可能性がある。
また、昭和35年に抗告人の相続財産中の持分についても、本人の意思にかかわらず、勝手に為されたものであることを申し添える。
抗告理由補充書、同II及び寄与分を定める家事審判申立書<省略>